大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和37年(く)17号 判決 1963年3月15日

抗告人 藤本マツエ 外一名

決  定

(抗告人氏名略)

請求人藤本松夫に対する単純逃走、殺人被告事件の確定有罪判決にかかる再審請求事件について、昭和三七年九月一三日熊本地方裁判所のした再審請求棄却決定に対し、右両名から即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告を訴却する。

理由

本件記録(被告人藤本松夫に対する単純逃走、殺人被告事件の確定記録を含む)によると、単純逃走、殺人被告事件について有罪の確定判決を受けた藤本松夫は、昭和三六年一一月六日熊本地方裁判所に対し再審の請求をして、その後選任した弁護人横山茂樹、同諫山博、同谷川宮太郎及び同吉田孝美から四名連名の再審請求補充書が提出されたが、同地方裁判所は昭和三七年九月一三日該請求は理由がないものとして右再審の請求を棄却し、その決定書謄本は即日再審請求人藤本松夫に対し、又同月一六日右各弁護人に対して、それぞれ送達されたところ、藤本松夫は翌一四日刑の執行を受けて死亡したので、同人の母藤本マツエ及び長女藤本マス子は同月一七日当裁判所に対して右請求棄却決定に対する即時抗告の申立をなし、その後前示弁護人四名連名の即時抗告申立理由書の提出されたことが明らかである。

案ずるに、有罪の確定判決に対する再審の請求が棄却された場合その棄却決定に対して即時抗告の申立を為し得る者が、該再審請求人は勿論、その法定代理人又は保佐人、弁護人などであることは、刑事訴訟法の規定するところによつて明らかであるが、再審の請求が棄却された後、その請求人が死亡した場合、同請求人の母及び子などその直系の親族が請求棄却の決定に対しこれを不服として即時抗告を為し得べき旨の規定は刑事訴訟法上、存しないのみならず又刑事訴訟法が再審につき、その請求人が死亡した場合や、有罪の確定判決を受けた者が死亡した場合などのために、特別に設けた(一)有罪の言渡を受けた者が再審の判決がある前に死亡しても、再審開始決定の確定した事件の審判には、刑事訴訟法第三三九条第一項第四号(公訴棄却)の規定を適用しない旨の同法第四五一条や(二)再審請求人のした弁護人の選任は、再審の判決があるまで、その効力を有する旨の同法第四四〇条及び(三)、有罪の言渡を受けた者が死亡した場合には、その配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹が、再審の請求をすることができる旨の同法第四三九条等の規定の趣旨から考えても、再審の請求が棄却された後、同請求人が死亡した場合、その請求人の母及び子などその直系の親族は、新に再審の請求をすることはできるにしても、それらの者が右死亡した請求人の地位を承継し、若しくは独立して該請求棄却の決定に対しこれを不服として即時抗告を為し得るに至るものとは到底解することができない。

してみれば、本件即時抗告の申立は、即時抗告権を有しない者のした不適法なものという外はないので、刑事訴訟法第四二六条第一項に則り、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 大曲壮次郎 古賀俊郎 中倉貞重)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例